陶器工房壹の設立は1996年。まだ30歳にも満たない若造時分のことでした。

陶芸家の工房名は代々受け継がれたもの、思想や信条を表したもの、名から広がるイメージを重視したものと多々あるわけですが、土地の名前、自身の名前に由来したものが一般に多いといえるのではないでしょうか?

現在のうるま市(旧 具志川市)に間借りして始まった陶器工房壹は居候状態だったため土地の名前を付ける訳にもいかず、さりとて29歳の若輩者には将来を見渡した思想信条を謳うこともできず、否むしろこれから踏み出す一歩以降起こるであろう様々な展開に胸踊らせているような状態だったので自然と名前にちなんだ工房名を選んだような気がします…。

幸い私の名が「壹岐」というそう多くはない名前だったので直ぐに「壹」の字を調べることになるわけですが、あるじゃないですか!やきものとの深い繋がりが!!!

「壹」の字の起こりは「壺」+「吉」。壺の中に発酵物を入れ、きっちり蓋を閉めたものが順調に発酵している様を「壹」としたのが由来だということでした。発酵物は人類の叡智。食糧事情の厳しかったであろう古代、中世代においては仕込んだ発酵物の甕が満々と満たされていくさまはどれだけの安心感と幸福感を当時の人々にもたらせたかと想像するだけで私まで満たされた気持ちになったものです。「壹」の字のように自身も世になにかをもたらす工房であるようにと迷うことなく「壹」の字を工房名とさせていただいたのでした…。